「社長の仕事論」
お知らせ
取引先の繋がりで、弊社代表である伊坪の仕事論をインタビューしていただきました。
出会いに感謝いたします。
飛躍への鍵は“顧客のニーズ”にあり。理念にブレず、新たな道を開拓
油圧プレス一筋40年 世界を視野に先手を投じる
伊勢湾岸道路「湾岸弥富」ICを降りて北へ約15分。愛知県弥富市ののどかな田園地帯をゆくと見え始めるのが、油圧プレス機の製造を営む「岩城工業株式会社」だ。創業以来40年にわたり油圧プレス一筋で事業をおこなってきた同社は、自動車関連部品やゴム製品、再生紙製品、シリコン製品など多種多様な製品を手掛けている。顧客から「こんな製品はできないか」「他社製品だが直せないか」といった問い合わせや相談も頻繁にもあるといい、いわば“油圧プレスの駆け込み寺”としてその地位を築いている。
「会社を興した父の苦労を見てきたので、最初は継ぐのを躊躇っていたんです」と苦笑いを浮かべながら話すのは、代表取締役社長・伊坪秀幸氏だ。学生のころから会社を継ぐようにと言われ続けた伊坪氏は、自身の中に鬱積された父親の言葉たちに反発するように、高校卒業後はトヨタ関連の大企業に就職しサラリーマン人生を歩み始める。
しかし働き始めて数年。伊坪氏の心の中には早くもある違和感が芽生え始めていた。「どれだけ仕事しても、全然自分に返ってこないじゃないか」。
もっと、手応えのある仕事がしたい。もっと、顧客の姿が見えるものづくりに携わりたい。そう思った伊坪氏は、21歳にして退職。機械設計の企業で5年ほど研鑽を積み、1999年、26歳で岩城工業に入社した。
そこで伊坪氏は、気になることを耳にする。
「ちょうど私が入社したくらいの年でした。中国に進出したお客さんが、向こうでは日本製ではなく台湾製の機械を使っていると言っていたんです。台湾製は日本製の半額ほどで購入できて、しかも性能も十分だというから、私は半ば信じがたい気持ちで。そこで早速、実際に現地のメーカーに視察に行きました。
そうしたら、その台湾のメーカーは本当に素晴らしい機械を作っていたんです。台湾は、国土が日本の九州くらいしかないにもかかわらず、すでに中国や東南アジアに大量に輸出ができるほどの生産能力がありました。私はとても驚くと同時に、このままでは日本の製造業はすぐに追いつかれてしまうと危機感を覚えました」
メイド・イン・ジャパンが脅かされている。そのことを実感した伊坪氏は、早速先手を打つことにした。自身が現地に半年ほど滞在して、そのノウハウを学んだのだ。
機械の設計や技術に関することはもちろん、台湾の文化や言語も吸収し、社長とのコミュニケーションも積極的に行なった。全ては、父の創った会社を大きくするため。そして「ニッポンの製造業」の誇りを守るため。やがてその努力が実り、同社とは代理店契約を結ぶことができたのだった。
その後、同様の方法で現地に協力会社を2社設けることに成功。現地での事業の進捗管理を行う必要が出てきたため、2017年には台湾に子会社を設立した。「その後すぐにコロナが始まったから、もしこのタイミングで子会社を持てていなかったら、2年は現地に行くことができなかったはず。コロナ禍になっても現地とオンラインですぐにやりとりができていたのは、不幸中の幸いだった」と、伊坪氏はここ数年を振り返る。
2023年4月からは、伊坪氏の息子が現地で勤務している。父親が作った土壌で経験を積みたいと、情熱を注いでいるそうだ。
もはや、日本人が日本の中だけでヒト・モノ・カネのやりとりをする時代では、ない。製造業もそうでない業種も、世界を見据えて、世界と仕事をしないと通用しなくなってくる時代が、もうそこまできているのだ。メイド・イン・ジャパンにどっしりとあぐらをかいていては、見えるものも見えないし、掴めるものも掴めないのだろう。
省人化と差別化を一度に解消 顧客の声で確信したロボット事業
同社では、昨年7月から新規事業としてロボット事業に取り組んでいる。その背景を尋ねた。
「いくつかの理由があります。まず1つは、自社の課題であったこと。油圧プレス機を稼働させる時には、必ず人がついていないといけません。例えばこういったゴム製品ができあがってくると、その取り出しは機械ではなく人が行います。しっかりとくっついてしまっているため、人が見ながら力を加減して外さないといけないんです。
また、当社の提供する製品はいわば少量多品種。24時間365日同じことをしているならまだしも、午前中はA社のシリコン樹脂製品を作って、午後はB社のフッ素樹脂製品を作る、という仕事です。その都度、機械やアタッチメントを交換して材料も入れ直して、という手間が発生するので、全てを自動化するわけにもいかない。だったら一部だけでも自動化し、人が関わる手間をなくして作業量を増やしたいと考えていました。
それに付随して、人材採用の面でも課題を感じていました。自社も含め、私の周りを見ても、製造業はどこも新しく人を採用できていない。少子化が顕著になってきていますし、仕方がないと言えば仕方がないことです。
そしてそんな状況でも入社してもらうためには、“なにか面白いことをやっている企業”として他社と差別化を図ならければならない。それも理由の1つでした。そのために建屋も増改築して、職場環境にもこだわりました」
加えて、先にも述べた海外製品の品質の向上も看過できない問題だった。世界レベルで見たら、日本製も海外製もさほど性能に変わりはないが、価格差は2倍ほどある。だからこそ、それを埋めるだけの“付加価値”が必要だった。プレス機そのものは海外製品と変わりないかもしれないが、自社の製品を購入すればもれなくロボットにより自動化もできる、というものだ。値段だけを見て手の届く海外製品にするのではなく、人権費や生産能力といった将来性を見越した提案ができるという点もアピールポイントだった。
なにより、実際に事業化に向けて背中を押したのは顧客の声だった。客先に行くたびに、自動化や人手不足について相談された。同じ製造業に携わる者として、気持ちは痛いほど理解できた。“油圧プレスの駆け込み寺”の名にかけて、顧客の困りごとには正面から応えたかった。
自分たちが売りたいものではなく、顧客のニーズに応えるものを。そこに対して進んでいくことに迷いはなかった。
「今まで手動で仕方なくやっていたことが、ロボットで、自動でできるなんて、想像しただけでワクワクしませんか?すごい!助かったよ!ってお客さんが喜んでくれて、社員も仕事が楽になって。もともと私自身、ものづくりが好きだからでしょうか。設備投資の面で不安もありましたが、やらないという選択肢はありませんでした」
会社の理念は“自分の生き様” 思いつきが正しいか慎重に判断
身近な顧客の声に耳を傾け、解決していく。取り掛かるべきは目の前の課題であるが、伊坪氏はあくまでも視野を世界へと向けている。
「もちろんグローバルな視野は常に持っているのですが、その足がかりとして2030年までに関東にショールームを展開するということも考えています。台湾との関係に依存しすぎることなく、国内でも生産能力を高めていき、より規模の大きな受注へとつなげていかなくてはなりません。そのためには愛知の他に首都圏にも拠点を持っていないといけない。向こうで実績とノウハウのある協力会社と提携できれば、新たに始めたロボット事業も拡大し、軌道にのるはずです。愛知県の製造業の一企業が、日本や世界で認められるためには、関東進出は必ず達成したい目標ですね」
私はもう、世界しか見えていないんです。確かな口調で、伊坪氏は断言した。それを支えるのは、思いを同じくする社員の存在だという。ワクワクすることや明るい展望を積極的に口にし、ここで働きたいと思われる組織づくりをしていく。大ボラ吹きだ、無茶な夢だと思われているかもしれないが、弱音や愚痴ばかりを口にするリーダーより、よほど人間らしい。そして自分の発言に対して自分が行動する姿を見せ続けることで、そこにまた人も集まってくるのだろう。
しかし、伊坪氏は方向性の決断について「ワクワクすればなんでもやればいいというものではない」と付言する。ただ面白そうだから、流行りそうだから、という理由で安直に始めるのはいただけない。少なからず資金や人材を割く以上、顧客が本当に自社にそれを求めているのか、そしてその方向性が会社の理念と合っているのか。焦って始める前に、その思いつきが正しいかどうかを冷静になって見極める必要がある。
「会社の理念は、私にとっては“生き様”と同じです。いろいろなものに手を出して、従業員や家族、地域を振り回して、失敗してしまう。それはやりたいことが定まっていない証拠ですし、そこには情熱がないんです。この会社はどうなっていきたいのか、会社が成長するために必要なことは何なのか、自分はどう生きていきたいのか。それらを成文化して常に掲げていないと、ダメだと思います。
だから『3年かそこらやってみて、ダメならやめますわ』という人とは、私とは考えが合わないはずです。新たに事業を始めようと迷っている人には、会社の理念、自分の生き様をもう一度見つめ直してみるといいと思います」
会社の理念は、自分の生き様。そのブレない軸があるからこそ、決断のときに迷わない。
新たな道を歩む未来はすぐそこだ。
終